石見神楽(いわみかぐら)−島根県浜田市 石見之國伝統芸能−石見神楽公式サイト−

大蛇

能 舞

大 蛇(おろち)

登場人物
須佐之男命(すさのおのみこと)、足名椎〈翁〉(あしなづち)、手名椎(てなづち)、奇稲田姫(くしいなだひめ)、八岐大蛇(やまたのおろち)
神楽歌
青草を 結い束ねてぞ 蓑笠と 作り初めます 須佐之男の神
あらすじ
須佐之男命(すさのおのみこと)が出雲の国・斐の川にさしかかると、 娘を大蛇に食べられてしまうという老夫婦に出会います。 そこで命は老夫婦に毒酒を作らせ、 これを大蛇が飲んで酔った所を退治し、 稲田姫と結ばれました。 この時、 大蛇の尾から出た剣は、 天の村雲の剣(あめのむらくものつるぎ)《のちの草薙の剣(くさなぎのつるぎ)》として三種の神器の一つとし、熱田神宮に祀られています。
見どころ見どころ
大蛇が大きな胴をうごめかせ、火を噴き暴れまわる様は息をのむ大迫力で、石見神楽の代名詞といえる演目です! 日本国内や、海外でも好評を博している演目。通常は4頭だけど、会場が大きくなると8頭や、それ以上の場合も!!
口 上〈校訂石見神楽台本より〉
須佐「自らは日の神天照大御神の御弟、武速須佐之男の命なり。先に天照大御神と御誓をなして自ら勝ち、その勝ちさびに荒び建びつるを、姉の命見畏みまして、天の岩戸をさして閉ぢ籠らせたまへば、八百万の神たち共に謀りて、大御神を招ぎまつりしかども、自らが仕業悪しかりしを憎みたまひ、八百万の神我を遺らひまたふが故に、いたく雨降り風吹けどもえ休まず、たしなみつつ天の壁たつ極み、国々を巡り、新羅の国よりこの本つ国に渡り、今出雲の国、肥の川上なる鳥上の處に着きて候。この處に音泣く声の聞ゆるこそ怪しけれ。尋ね上りて事のま事を見定めやと思ふなり。」
神二「げにこの山中に音なく声の怪しく聞え候へば、尋ね上りて事のま事を見そなはしたまふべく候。(幕内より)」

須佐「それなる翁は何を嘆きたまふぞや。又汝はなんと申す神にて候や。」
「自らは国つ神大山祗の命の御子にて、吾が名は足名椎、妻が名は手名椎、姫が名は眞髪触る奇稲田姫と申し候が、さても怪しき事の候故、かやうに嘆き申し候。」
須佐「その怪しき故をつぶさに語りたまへよ。」
「その怪しき故は、あれあれ御覧候へ。あれに見えしはやたがさこ肥の川と申す川上に、八岐の大蛇が住まひして、この国と人草を悉く取り食らひて候ほどに、このあれも八乙女を持てりしが、七年に七人取られ、後に残りしこの姫も、やがて大蛇に取られるべき時の来ぬる故、かやうに嘆き申し候。」
須佐「汝心安く思ひたまへよ。自ら佩かせる十束の剣を以て、かの大蛇を平げん。その娘は汝の娘なれば、自らに得させたまへよ。自らが神徳を以て、姫の命を助け、汝命は稲田の宮主の神と崇め得さすべく候。」
「こは有難き詔に候へども、畏けれども大御神の御名をも知り申さず。殊にかの大蛇と申すは、身一つにして頭が八つ、尾が八つ、伏したる丈は百丈に余り、背には檜の木杉生ひ茂り、腹には何時も血あえただれ、八尾八谷を這ひ渡る大蛇にて候へば、なかなかに御退治は叶ひ申すまじく候。」
須佐「自らをいかなる神と思ふらん。自らは天照皇大御神の御弟、武速須佐之男の命なり。かの大蛇は固より酒を好むものなれば、種々の木の實を取りて、八塩折りの悪しき酒を醸し、彼方に垣を結ひ廻らし、その垣に八つの門を造り、門毎に八つのさずきを結ひ、さずき毎にかの悪しき酒を盛りて待つべし。大蛇出で来て呑み酔ひ伏らしたらん時、自ら佩かせる十束の剣を以て、かの大蛇ずたずたに退治せんこと掌に覚えあり。急ぎ毒酒の用意いたすべし。」
「こは有難き仰せににて候。畏こき大御神にておはしたまふものかな。詔のまにまに姫を奉り、御教えの如く悪しき酒を醸し、彼方に垣を結ひ廻らして、大蛇待ち申すべく候。」

須佐「然らばこれなる姫を、これより七里去つて、大庭佐草の里に連れ行き、七本の杉の根に、七重に七五三を張り、八重に垣をし、八重垣大明神と斎き祭るなり。佐草聞くとかや、かの大蛇、固より酒を好むものなれば、種々の木の實を取りて、八塩折りの悪しき酒を醸し、かなたに垣を結ひめぐらし、その垣に八つの門を造り、門毎に八つのさずきを結ひ、さずき毎にかの悪しき酒を盛りて待つべし。大蛇出で来て、酒の中に姫ありと喜び、呑み酔ひ伏したらん時、自ら佩かせる十束の剣を以て、かの大蛇退治せんこと、掌に覚えあり。急ぎ毒酒の用意いたすべし。」

須佐「汝はかしこき神なり。いかで饗へせざらめや。」

須佐「あら不思議、大蛇をずたずたに斬りし時、尾に至り剣の刃少し缺けき。怪しと思ほして、さし割きて見れば、一種の剣を得たり。この大蛇の住む上に、常に雲のたなびきしは、この剣の徳なるべし。これを名づけて天の村雲の剣と讃へ申さん。二種の剣を天の葦根の命をして、天照大御神に捧げ奉らばやと思ふなり。」







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