石見神楽(いわみかぐら)−島根県浜田市 石見之國伝統芸能−石見神楽公式サイト−

八十神

能 舞

八十神(やそがみ)

登場人物
八上姫(やかみひめ)、八十神[武彦(たけひこ)][乙彦(おとひこ)]、大国主命(おおくにぬしのみこと)
神楽歌
八雲立つ出雲の神をいかに思う 
大国主を人は知らずや
あらすじ
因幡国に住む八上姫に求婚する八十神たち。 八上姫が大国主命を選び八十神たちを拒んだために、 八十神たちは継兄弟である大国主命を殺害しようと企てます。赤猪退治とごまかし、石を焼いて受け止めさせたり、木の股に挟み込んで苦しめたり、あの手この手で命を狙いますが、 難を逃れた大国主命によって退治されてしまいます。
見どころ見どころ
前半の見所は八上姫が八十神に見事にフラれる求婚シーン。中盤は大国主命と八十神のユーモアな攻防、後半はシリアスな決闘シーン。長い演目なので、見所満載なのだ!

口 上
八上姫「自らはこの處に住まひする国つ神の娘、因幡の国八上姫とは自らが事なり。ここに出雲の国に大国主の命ありて御情を蒙るところに、この神の兄弟に八十神ありて、我に道ならぬ事を申しかけ、悪逆を以てたばからんとす。誠にこの神の仕業によりて、さ蠅なす皆沸き、火瓮の如く輝く神ありて、天の下穏やかならざれば、急ぎこの由を大国主の命に申し上げ、天下泰平長久を勧め申さんがため、これまで進み出でて候。」
(中略)
武彦「我こそは、八十神と申して、大国主の命の繼兄弟なり。汝も知ろしめすらん。予ねて言ひ寄ると雖も、その御答へなきにより、今日気多の崎より後を慕ひて候。いかにも御答へをきかまほしく候。」
八上姫「こは思ひもよらぬことを宣ふものかな。露ばかりも承り申さぬ事にて候。」
武彦「こは仰せとも覺えず候。心なき岩木の山も呼べば答へ候とか。度重ねて申入り候を、ひたすらに御答へなきは、岩木にも劣るとかや申すべく候。強いても御答へを蒙りたく存じ候。」
八上姫「げに御心のほどはいたはしく候へども、自らには大国主の命と申して男神あり。何とて女神の道に背き申すべくや。偏へに御許しを蒙りたく候。」
兄弟「いかにも許したまはざるに於ては、我ら兄弟八十神あり、共に謀をめぐらし大国主の命を亡ぼし、その後こそ見参仕るべく候。」
(中略)
武彦「いかにも乙彦の命を知ろしめす如く、八上姫の命をとり逃がせし事残念に候。この上はいかに計らひ申すべく候や。」
乙彦「某が存ずるには、これより伯耆の国手間の山本に至り、大国主の命の帰りを待ち受け、この山に赤猪ありと偽りかの山に猪に似たる大石をとりて、よく焼き轉ばし落す時は、大国主の命はまことの猪と心得、待ちとらんとして焼け亡びなんこと、疑ひなかるべく候。」
武彦「こはよくも計らひたまひつるかな。若しこのたばかり成らざる時は、重ねて深山に誘ひ入れ、大木を伐り伏せその中に立ち入らしめ、ひめ矢を放ちて、打ち亡ぼし申すべく候。」
兄弟「さらば手間の山本にと急ぐべく候。」
大国主「自らは須佐之男命の尊の曾孫大国主の命なり。神漏岐伊弉諾伊弉册の尊、大八州の国すべて山川草木を生みたまふと雖も、未はしばしに成り足らざる處あり。我この廣矛を以て足らざる國を造り、道なき處に道をつけ、又水なき處には水を便りを求め、やうやう田畑成就いたす。これ皆自らが神功なり。これによつて天の下の万民、我を名づけて國造り大汝己貴の命と申すなり。我徘徊の折りから、因幡の国に八上姫の命あり。心やさしき女なり。我も年來玉襷情をかけたり。今日も又因幡の国八上姫の命の許にと急ぎ候。」
大国主「あら不思議やな。手間の山本を通る折から、岩岩石の崩るる音のすさまじさ。こは何者の仕業ならん。我に敵たふ八十神の仕業なるべし。容易にこの山本を通るべからず。暫く松の木陰に旅居して事の様子を伺はん。」
八十神「それに御出は、大国主の命にましますならん。この山に赤猪あり。我等もろともに追ひ下し申すべく候。汝が命必ず待ち取りたまふべし。若し得給はずは汝が命を亡ぼし申すべく候。」
大国主「汝ら繼兄弟の御言のままに、我必ず待ち取り申すべく候。追ひ下したまへ、兄弟の神等。」
武彦「いかに乙彦の命知ろしめす如く、大国主の命を亡ぼせし上は、心のままに八上姫を手に入れんこと易かるべく候。」
兄弟「さらば因幡の国にと急ぐべく候。」
大国主「やあやあ、汝ら先には伯耆の国手間の山本に於て、赤猪と偽り大石を焼きて轉ばし、又ある時は大木を伐り伏せ、その中に立ち入らしめ、茹矢を打ち放す時、木のまたより漏き逃れ出で、大屋彦の神の御教によりて、御祖須佐之男命の在す根の堅州国に下り、御許なる生太刀、生弓矢を得つれば、汝ら繼兄弟の八十神どもは、坂の尾毎に追ひ伏せ、川の瀬毎に追ひ拂ひ、我この国を治めて大国主の命とならんと思ふなり。」
兄弟「やあやあ、汝命その生太刀、生弓矢を以て我らを從へ、大国主の命とならんとは思ひもよらず。我ら兄弟八十神あり。共に謀を設け、汝を失ひ申さんこと疑ふべからず。」
三人「いざや立ち合ひ勝負を決せん。」





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