石見神楽(いわみかぐら)−島根県浜田市 石見之國伝統芸能−石見神楽公式サイト−

黒塚

黒 塚(くろづか)

登場人物
阿闍梨祐慶大法印(あじゃりゆうけいだいほういん)、剛力(ごうりき)、三浦介(みうらのすけ)、上総介(かずさのすけ)、玉藻前(たまものまえ)=白面金毛九尾悪狐(はくめんこんもうきゅうびのきつね)
神楽歌
陸奥の国那須野ヶ原の黒塚に 
鬼住むよしを聞くがまことか
あらすじ
熊野、 那智山の東光坊の高僧、 阿闍梨祐慶大法印(あじゃりゆうけいだいほういん)が剛力と修行の旅の途中、村人から九尾の悪狐の話を聞きつけ退治しようとしたところ、 女に化けた狐に化かされ、剛力は食われ法印は命からがら逃げました。 その話を聞いた弓の名人、 三浦之介、 上総之介により悪狐は退治されます。
見どころ見どころ
法印さんと剛力のユーモア溢れるやりとり(チャリ)が楽しい♪
狐も観客席に入って大暴れ! 怖い子は毛布にくるまって隠れるドキドキワクワクの演目だよ。
口 上〈校訂石見神楽台本より〉
法印「そもかやうに候ふ僧は、那智の東光坊、権大僧都阿闍梨祐慶大法印にて候。それ山伏の行と言ぱ、役の小角の数を受け孔雀明王の法を修し、深く秘教通力を得んと欲す。故に大峯葛城山の頂に登り、種々難行の功を積む。然るところ、我が元祖役の優婆塞を申すは、その先大和の国茅原村の住、加茂氏の男なり。三才にして父に後れ、七才になりたまふまで母の御恵みにて人となり、至孝の志浅からず佛道修業懇ろなり。五色の兎に從ひて大峯葛城山の頂に登り、藤の衣に身を隠し、松の緑に命をつなぎ、勤学したまふこと三十余年、一生不犯の聖なり。さるによつて、その流れを汲む者は形は優婆塞となり、頭に五智の寶冠を頂き、十二因縁の襞を据え、九会曼荼羅の鈴懸に退臓黒色の袈裟を掛け、降魔の利剣を横たへ、外には忿怒の相を現ずと雖も、内には忍辱の心を旨とす。さらば不動愛染、四天、仁王、これ皆降伏の矛を構へ、常に護法したまへり。これによつて我捨身の行に心をかけ、那智山中に瀧に一千日の垢離を取り、その後諸国修業に罷り出で、筑紫に彦山、長門に下山、伯耆に大山、加賀に白山、羽前に湯殿山、越中に立山權現、王城に比叡の御山、愛宕山、東海道三ヵ国、伊豆箱根両所の社へも参詣仕り候。又よき序なれば、むつの国那須野が原をも一見せばやと存じ候。而してこの那須野が原には三国無双の妖婦、白面金毛九尾の悪狐たちこもり、往来を妨げ諸万民を害すと聞く。正しく悪狐を退治、妖性の化性をも見届け、国家万民のため調伏せばやと存じ候。愚僧も長旅の事に候へば、心も疲れ候ほどに一かなで仕らばやと存じ候。」
剛力「この丁稚も一かなで仕らばやと存じ候。」

法印「いかに剛力、今日の日も七つのかしら八つのこじりと相見え候ほどに、あれなる柴の庵に至り一夜の宿を借り受け歸られ候へ。」
剛力「柴の戸に案内申し候。」
内より「柴の戸に案内申すとは何條何事にて候や。」
剛力「何條でもかん條でもありませんが、那智の東光坊阿闍梨祐慶大法印の丁稚こさぎであります。法印様が一夜の宿を借りたいと申されますので御願ひに上りました。」
内より「さん候。宿は貸したく候へども、御覧の通りこの野では、野風山風吹き荒らし、我らさへ住まひかねたる柴の戸に、月も止まらむこの家の内、肌へを隠すたよりなし。いかにも宿は叶ひ申さず候。」
法印「いかに剛力、それを家持つて旅する者もなし。寺持つて修業する僧もなし。一村雨の雨宿りは百生の奇縁と承り候ほどに、重ねて参り借り受け歸られ候へ。」
内より「さん候。是非々々宿が借りたく候はば、背戸の山より七十五荷の木をこり、沖の川より七十五荷の水を汲み、七つ五つのその窓より煙を出し候はば、御僧様の鈴懸衣を干させ申すべく候。又剛力殿には萱を敷き寝に、ほたを枕に一夜明かさせ申し候。」
法印「さらば一夜の宿りへ急ぐべく候。」
〈中略〉
「誠に女と申す者は罪深くして、三世の諸佛に隔てられ成佛ならざる由、こは誠にて候や。」
法印「いかにも女人が申す通り、女と申すもとは罪深くして、三世の諸佛に隔てられ成佛といふこと更になし。女の胸には淡水とて、廣さ八万由旬、深さ八万由旬の血の池あり。その池のほとりには殺生、愉盗、邪淫と申す三つの虫が住まひして、その虫の常に思ふやう、男の胸に住むならばかかる悪事はあるまじと、よれつもつれつ泣く涙、これによつて月に七日の障りなす。これを地に捨つれば地神の御嫌ひたまふ。山に捨つれば山神様の御嫌ひたまふ。水は清きものなれど、水に流し捨つれば、八徳水神の御嫌ひたまふが故に、八万代のうち成佛といふこと更になし。汝一夜の宿の奇縁により、有難き霊文を授くるなり。一者福徳、二者大社、三者魔王、四者天神、五者明王佛身と授くるなり。急ぎもとの古巣に立ち歸り形を變へて参られ候へ。」
「こは有難き御仰せにて候。渡りに船を得たるが如く、又闇の夜に燈火を得たるが如し。この上は御僧様の御仰せにまかせ申し候。」
〈中略〉
法印「それに立つたるは何者ぞ。」
「我らの營むわくかせわにて候。」
法印「わくかせわならば奏で候へ。愚僧はこれにて見物いたさん。」
「いかに御僧、現はれたり。宿まれといふに止まりもせず、一夜をかす寒き夜に、抱きむくめたる甲斐もなし。天を割つて上らんとこそ。大地を割つて入らんとこそ。宇宙の煙りを粉々として絶間なし。たちかけたちかけ、生き血を吸はいでおくものか。」

弓取「それに立ちたるは何者ぞ。」
「おお我はこれ、天地開闢の時、陰々たる邪気残れる形を狐に受け數千万の星霜を経て宇宙の間を流横し、既に唐天竺を取りひしぎ、この、日の本に飛び渡り、鳥羽天皇の上にあつて玉藻の前と現はれ、巳に宮中を奪はんとせしに、泰親が呪術の神力に縛せられ、廣庭を飛でこの那須野が原に引きこもり、諸万民を害し、我が幾星霜を知らぬ輪廻に浮ぶまじき大悪狐とは我が事なり。汝らいかなる神やらん。」
弓取「おお我はこれ、三浦の介上總の介と申して、四海に隠れなき二人の弓取なり。汝大御国を退くか、退かざらんに於いては、天に昇れば天の鹿兒弓、地に下れば村雲の寶剣を以て汝が一命を打ち取ること只今なり。」
「あら恐ろしやな。神明の御注連縄に絡められ、世界廣しと雖も飛び行く處なし。国は多しと雖も逃るべき国もなし。汝ら如きにの手の下に、命を落とさんことの無念さよ。さりながら我が悪念忽ち毒石となりて、再び害をなさいでおくものか。」





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